Iago

 

神山くんが舞台オセローに翼くんの代役で出るいうニュースが舞い込んできたのは5月3日だった。

 

ともぴろちゃんがオセロー?シェイクスピアすんの??イアーゴーを???え?まじで???しかも歌舞伎や宝塚といった、舞台に愛された人たちと名を連ねている。演出はあの蜷川幸雄の助手をしていた人。

 

どの情報を見ても ま、まじか〜!!!!!!しか言えなかった。羅列する文字が全部強い。

 

元々舞台が好きだったり俳優が好きだったりするので、シェイクスピア蜷川幸雄もそれなりに通ってきた。だからイアーゴーという役の凄さは重々承知していたし、しばらくは信じられなくてオタクと取り留めのない電話を何度もした。

 

シェイクスピアは元々表題を「イアーゴー」にするつもりだったらしい。つまりはイアーゴーは主役も同然。神山くんも言っていたけど、数あるシェイクスピア作品の中でもイアーゴーはハムレットの「ハムレット」に次ぐ台詞の多さ。

まさか25歳になる神山くんに、そんな仕事のオファーが来るなんて考えてもみなかった。

シェイクスピアは舞台に立つ人間からするとやはり一種のステータスで、いつか立ってほしいなあと思っていたけれど、これは偏見だが神山くんはシェイクスピアの作品を読んだことはなさそうだし近い未来にそんなことを考えてもなさそうだった。特に興味もないのかなあ、なんて思っていたけど、なんと神山くんは、舞台BLOOD BROTHERSで演出を手掛けたグレンさんに

「あなたは絶対お芝居をやめないでね。頑張っていれば『ハムレット』ができるから」と声を掛けられていたらしい。

当時そんなことを神山くんは話していなかったから当然知る由もなかった。まさかそんな役者冥利に尽きる嬉しいことを言われていたなんて。

三年半越しにそんな話を聞けると思っていなかったから、これは嬉しいおこぼれだった。

 

 舞台オセローの最初の本読み稽古は3月に行われている。この時点ではまだ翼くんで話は進んでいたから、もちろん神山くんは参加していない。

 ここで固められたイメージを尊晶さんと擦り合わせるために5月頃に本読みが行われると、WESTival北海道では「まぁ〜〜〜ムズイ!」と声を高くしていた。

レコメンでは「楽屋では台本を開かへん。稽古場で覚えるって感じかな」と話していたけれど、すぐに「今回はそうはいかない。稽古場でも家でも開いてブツブツブツブツ…」

 藤井流星さんはあまりにも険しい顔をして台本と向き合う神山くんに、「どう?チェス」とツッコミ待ちで声を掛けると「いやオセローな」とマジレスされたらしい。

お仕事の合間にはマネージャーさんや小瀧望さんに「一言一句、少しでも間違えたら指摘して」と読み合わせをしてもらったり、1番驚いたのはいよいよ8月に稽古が始まると「ノイローゼになりそう」「吐きそうになる」「台本開くのが怖い」と弱音を吐いたこと。

ぶ誌でも「苦戦して悩んでもがいている」と漏らしていた。

「だけどその先に目指す結果があるはずだ」と、何を見聞きしても自分で自分を鼓舞してギリギリまで追い詰めている姿が見て取れた。

 

本当になんの見通しも立っていないならそんな弱音は言わない、言えないような人だから、そこまで不安になることはなかったけれど、それでも神山くんがそんな風な本音を漏らすのは長年応援してきて初めてだったように思う。

 

芝翫さんが「神山くんが稽古場で暗くなっちゃったときもあったし、皆で「大変だ、大変だ!」って言っていたんです」と話していたり、

尊晶さんが「僕も初めてだから同じだね」「ギャフンと言わせてやろう!」と神山くんに言葉を掛けたという話を聞いて、立ちはだかる大きな壁に一緒に向かってくれるのがこんなに温かい座組でよかったと心から思った。

 

いざ9月2日 舞台オセローの幕が上がると、そこに居たのは堂々立派たるイアーゴー。

正直者の顔と悪党の顔。優しい顔をしていたかと思えば次にこちらへ向けるのは鋭い眼光。

4時間、ただ息をのむことしかできなかった。

カーテンコールになっても神山くんのあのかわいい笑顔は影に隠れていて、気を張った表情だった初日。

終わった…と思わず声を漏らした神山くんの、その計り知れないプレッシャーがどれほどのものだったかなんて到底分からない。あのやり切ったような、少し情けない顔はたぶん、きっとわたしが神山くんのファンを続ける限り忘れることはないと思う。

その次の日には穏やかな顔をしていて、その次の公演でようやくかわいらしい笑顔が出た。

 だけど千秋楽のカーテンコールで「ああ、神山くんだ」とふと思ったので、やっぱりそれまでは神山くんのようでイアーゴーだったのかもしれない。

 

千秋楽で神山くんは泣かなかった。

ブラブラでは子供のようにわんわん泣いていた。VBBでも、やっぱり子供のようにぐすぐすと泣いていた。

初日はあんなに情けない顔をしていたのに、神山くんはすごい。1ヶ月でびっくりするほど大きくなってしまった。真っ直ぐに前を見て2ヶ月間を振り返るように深くお辞儀をして、挨拶では笑いまで取っていた。

 

神山くんは全身全霊、精神を削るように、命を燃やすようにイアーゴーと生きていた。 

それはもう文字通り、身も心もボロボロにして、だ。

わたしが初日から2日間見てまたその次の週に見たとき、あんなにハリのある声だったのに、と思った。思ったけれど、それでも全然支障をきたしていなかったし相変わらず艶やかな声だった。

最後の挨拶で喋り出したとき本当に驚いた。ガラガラ、ガサガサ、カスカス、全部当てはまる。そんな声でもあんなに出来る。それはもう神山くんの執念だ。なんて恐ろしい人なんだろう。

 

 艶のある声、しゃんとした背筋、神山くんの持って生まれた大きな武器。

どうかずっと板の上に立ち続けてほしい。

後にも先にも、神山くんがこんなに苦悩する作品はないかもしれない。台詞も立ち回りもどこから手をつけたらいいかわからなくて、それこそ本当にノイローゼになってしまう!っていうくらい思い詰めるようなこと、きっとないと思う。

もしぶち当たったとしても、この舞台オセローを乗り越えたという事実が神山くんを支えてくれるんだろう。舞台オセローは神山智洋さんの人生における大きな財産だ。

 

全力で駆け抜ける神山くんを見て、私も全力でこの舞台に向き合わなくちゃと思った。向き合い方は人それぞれだから、私のやり方が正しいというわけではない。

ボロボロになるまで本を読み込んだ。奈良から東京まで、泊まったり日帰りだったり、とにかく新橋演舞場に足を運んで気付いたら3日に1度、結局公演の半分を観劇した。

どれだけ願ったってもう新橋演舞場で舞台オセローは公演されていないし、イアーゴーはいない。

 すごくすごく寂しいけれど、私も多分、やり切った。

 

25歳でシェイクスピアに出逢えたこと、イアーゴーという役をやり遂げたこと、とてもとても誇らしい。私の好きな人はすごい。本当にかっこいい。

でっかい人間に、なってしまうんだろう。

それでもきっと神山くんは「もっと」と言うんだろう。

 今この瞬間、神山くんのファンとしてオセローを共に過ごせたことが嬉しくて仕方がない。

 

神山智洋さん、本当にお疲れ様でした。

どうかふかふかのお布団でたくさん寝て、甘いもの、美味しいもの たくさん食べて、愛犬とおさんぽしたり愛猫とごろごろしたり、たくさんたくさん休んでください。

 

今度はアイドル ジャニーズWEST神山智洋として、キラキラの笑顔を向けてくれるのを楽しみに生きたいと思います。

 

そしてまた、いつか新橋演舞場で。

 

 

 

ちなみにまだやることは残ってる!

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追記

千秋楽を終えた直後に書いたというなにわぶ誌を読みました。

2ヶ月を振り返るとやっぱり最初に出てきた言葉は「しんどい」「いらいらする」「ノイローゼになった」「公演終わりにぶっ倒れた」

こんなにも素直に負の感情を出せるくらい、全38公演を終えた神山くんは達成感に溢れていることがよく分かる。苦しいまま終わらなくてよかった。

 

初日を見終えて、「かみやまくん、この期間にもアイドル業があるのすごく苦しいだろうなあ」と帰り道に思わずつぶやいてしまった。

公演終わり休憩する間も無くMステに駆けつけなければならないというスケジュールもだけど、精神的にすごくしんどいんじゃないか なんて勝手な、神山くんからするとありがた迷惑にも程がある心配をした。ぎょろぎょろと目を光らす悪党から1時間後には、キラキラの笑顔の振りまくアイドルにならなきゃいけないなんて。

 

皮肉なことに、神山くんがそうしてノイローゼに苦しむ傍らでどんどんイアーゴーとしての迫力が増していたのは確かだ。というより、神山くんを蝕んでいたのはノイローゼじゃなくてイアーゴーだったのかもしれない。

 1ヶ月も同じ役をやるとやはり慣れてくる感覚があると思うし、それって案外分かる。だけど今回神山くんからそれは見られなかったんですよね。毎日毎日苦しんでいた。

 神山くんはたぶん最後までイアーゴーと友達になることはなかった。それでいいと思う。かわりに悪魔を住まわせた。相容れない奴との生活は本当にストレスだっただろう。甘いものを食べられなくなるという方向にストレスが出るのは少し笑ってしまった。たくさん食べてね。

 

シェイクスピアにまた出たいという神山くんの夢が叶いますように。

 

ありがとう!イアーゴー!